ついに99に、次は09=夏の終わりの出来事② [人生の午後三時]
耳障りな「ピ~ポ~」が、家の前に停まった。
「こちらですか?奥ですねぇ~、入りますよぉ」
妻に案内されて、救急隊の方が入ってくる。
「はい、大丈夫ですよぉ、楽にして…」
「すいません…」なんか申し訳ない。大した税金も納めてないのに…
一人が妻に対して、落ちついて、短く、必要充分な質問と確認。
もう一人が搬出ルートを点検。
「ここから行くしかないね。狭いけど…」
「はぁ…すいません…」狭い家だけど、まだローンが残ってるんです。
「じゃ、奥さん、保険証持ってください」
「ちょっと、動かしますよぉ。大丈夫ですからね」
二人でゆっくりと運び出される。
玄関を出る、いや出される。
見なれたはずの玄関も、寝ころんでは初めて。
暮れかけた空が、白樺の枝の向こうに見えた。
(まだ明るかったんだなぁ?)と妙なことが気になる。
嫌な汗で濡れた肌に、風があたるのを感じた。
それは、確かに…夏の終わりの風だった…
救急車に運び込まれる。
「奥さん、火の元、戸締まり」救急隊員の確認の声。
「はっ、はい」なんだぁ…そういう返事もできるんじゃないか?
「とりあえず脳外科に行こう、連絡して…」
数分おいて、車はゆっくりと走り出した。
ピ~ポ~!ピ~ポ~!を聞きながら…
救急車の天井を眺める余裕もなく目を瞑って眩暈に耐える。
強烈な吐き気が、時間をおいて襲ってくる。
冷や汗がゆっくりと首筋を流れている。
(これは…かなり危険な状態なのか…まさか…)
どんどん不安が大きくなる。
やってきたあれこれとやらなかったあれこれが頭に浮かぶ…
病院まで…とても長い時間に感じられた。
実際は、時間にして10~15分で到着。
手際よく運び込まれていくと…
医師が顔を覗き込んでくる。
「聞こえるぅ?大丈夫ですかぁ?」いや…こちらがお聞きしたいのですが…
「は…はい…」とりあえず返事だけはした。
「とりあえず…CT撮って…それからだね」
(えっ?やっぱり…危険…もしかして…死ぬ…)
結果が出るまで長い長い時間?実は数分だったようだが…
脳裏にいろんなことが浮かんでは消える。
思えば、やり残したことのなんと多いことか…
願って、叶わないことばかりが思われる。
表彰されるほど善いこともできず…
新聞に載るほど悪いこともせず…
まったく男として、つまらん人生だったなぁ。
あっ…意識があって話せる今のうちに…
辞世の句とか?遺言とか?言っておかないとなぁ…
「つゆくさと瞬きあえばちいさき身」 澁谷道
でも…自分の預金通帳とか?どこにあるのかなぁ~?
考えてみると、ユニ○ロで買ったパンツから…
給料の振り込まれる口座、通帳、印鑑、生命保険の証書等々…
すべて妻が、いや妻しか場所を知らないんだよなぁ~?
まったく…つまらん人生だなぁ~…
そう言えば…
高校生の頃にパトカーに乗って(乗せられて)…
子供が生まれて、市のイベントで一緒に消防車に乗った。
そして、ついに救急車に乗ったので…
あとは…霊柩車に乗るだけかぁ…
思考は激しく浮き沈みしつつ…確実に覚悟の瞬間へ向かっていく。
長くなりそうなので…
飽きられつつも…さらに次回へ続く…
今日も訪ねてくれてありがとうございます。
夏を乗りきったあなた…
明日は、秋風に想い出を振り向いてくれますように…
おやすみなさい
書いているということは大丈夫だったわけですし、その意味では安心して読んでます。
by 春分 (2008-09-14 07:53)
冷静にご自分を観察なさっていて、さすがGUSUKOさんですね。
なかなか得られない経験ですもの。
大事でなく、良かったです。
by selybar (2008-09-14 14:03)
春分 さん>
ありがとうございます。
なんとか大丈夫でした。
selybar さん>
今だからこんな風に振りかえることができます。
その時は、とても、とても…情けない状態でした。
by GUSUKO-BUDORI (2008-09-15 19:57)
経過が気になって読みました。というしるしにナイスを押しました^^
by ミヤ (2008-09-16 20:49)